建築・設計から耐震補強・リフォームのことは央設計事務所までご相談ください

一休和尚の生きた時代も、人の姿の根源をみつめようとせざるを得なかったようである。
古代遺跡から発掘された頭蓋骨をもとに、生前の在りし姿を復元した挿し絵をなにかの本で見たことがある。厳しい顔立ちや優しげな表情などのそのひととなりを再現できるかどうかはうろ覚えで不明だが、どちらにしても、骨格がその人のすがた･かたちを決めていることは間違いない。生前は美人であった女人の骸骨に皮･肉を付け加えればもとの美人になるのだろう。
一度やってみたいと思うのは私だけではあるまい。

現在の人類の歴史を猿人から数えれば120万年、ホモ・サピエンスとなってから4万年の歳月がたっている。120万年をさかのぼれるのは骨格のみである。すなわち骸骨。
してみれば骸骨こそ秘密のべ一ルを解く鍵であるらしい。はたまた骸骨こそもののなりたちを左右するパンドラの箱であるらしい。骸骨を美しいとするか、否とするかは分かれるところであろう。骸骨の全体を目の前にぶらさげられるとあまり近づきたくはないが、やはり美しいと思う。ギリシャ神話の地上最初の女性であるパンドラの骸骨ならばじっくりと見たくなる。我々の先祖で、しかも美人の骸骨であるならなおさらのこと。
骸骨が美しいのは、それぞれの骨がその役割に忠実な形態と大きさをそなえ、全体の秩序を構成し参画しているからだろう。内臓を守りながら動き回るという特殊事情が、美しい骨格とこれを包む皮･肉を育てたに違いない。今まさに巨人ゴリアテを打ち倒しに出かけるミケランジェロのダビデ像の雄々しさ、美しさ。骨格とこれを押し包む筋肉の頼もしさ。
骨が肉に問い、肉が骨に答う。緊迫した響き合いの中で造り上げられた全体のバランスの良さ、緊張感、そしてダイナミズム、これが「美しい骸骨」の生命・魂と考える。建物も、人から「美しい」と思われたいに違いない。建物の場合でもバランスの良さ、緊張感、そしてダイナミズムをその信条にしたい。建物の骸骨となるとさしずめ基礎、柱、梁、小屋組だろう。各々の骨をその役割に適したものに設定するのは人体とおなじだ。人体と違うのは風に耐え、地震に備えねばならないことである。しかも美しくあらねばならない。

「建物が美しい」と感じさせるものは少なくとも、その建物の骨組みが美しくなければならない。建物が風など外部からの力を受け、これを骨組みに伝え無理なく地面に逃がす。
地震の時には、地面の揺れを骨組みに伝え、骨組みがきしむことで力を和らげ減衰する。
骨組みが美しいというのは、この力の流れ、分散や合流、拮抗する力の伝わり方がきれいであり、各々の骨がその役割を果たすのに必要な大きさ・強さを備えている場合ではないだろうか。そしてこの切磋琢磨した結果の骨組みがそれ以上付け加えることも省くこともできない状態の骨組みになったときに初めて、美しい骸骨を創り出すことができると考える。

美しい骸骨も数々ある。洗練され研ぎすまされたものや、その内にやさしさを含むもの、緊張感のあるダイナミックなものなどである。仏像なら東大寺戒壇院の広目天像や秋篠寺の技芸天像、東大寺南大門の仁王像にあてはめることができようか。また、なやましげな美人として薬師寺金堂の両菩薩像というのはどうだろう。いつの日かこの菩薩像のような建物を造ってみたいものである。どのような姿・形にするか、どのような建物にするかは平面構成・空間構成と骸骨・皮・肉との響き合いによる。お互いの響き合いの中から美しい骸骨が生まれる。美しい骸骨を造りたいと考えるのは、その骸骨という考えが建物と住む人・使う人とをつなげる命綱になるからであり、建物に親近感を抱く重要な要素でもあるからだ。この命綱こそが「安心」を得て生活するための必要条件ではないだろうか。

終の棲家としてのあり方だと思う。「おおらかな住まいシリーズ」をはじめ私が手がける建物は、美しい骸骨という考え方、骸骨と皮・肉の関係を念頭に計画したものである。人問の内部に入り込んで骸骨を眺めるわけにはいかないが、建物の場合はそれが本質。建物全体を構成する骨格を眼の前にあらわすことにより、「眼に見えない」力の流れを「眼に見える」ものに置き換え、建物の成り立ちを理解する、と同時にそのダイナミズムを味わう。眼に見えない自然の意志を眼に見える姿・形にあらわしたい。